Rotem Gura Sadovsky(Corundum Systems Biology シニアディレクター 兼 データ戦略責任者)著
近年の人工知能 (AI)の急速な進歩により、資金調達を目指す研究者やイノベーターにとって、AIツールの導入は戦略的に不可欠なものとなっています。
計算生物学に精通した投資家である私たちの視点から見ると、現代のAIはすでにバイオテクノロジー企業に対して、2つの異なる形で価値を提供していることが明らかになっています。
1つ目は「既存機能の統合・連携」です。 AIエージェントや言語モデルが業務を自動化し、科学者がすでに使用しているツールと連携します。
2つ目は「新しい機能の創出」です。 生物学的・生理学的データを直接学習した自己教師あり学習モデルにより、研究者が単独では見つけられないパターンの発見や、新たな設計案の生成が可能になります。
オーケストレーションと自動化:バイオテクノロジー組織をつなぐ基盤としてのAI
オーケストレーションと自動化は、企業の運営や実行力を大きく向上させます。
現在では、スタートアップがメールの優先順位付け、会議の要約、プロジェクト進捗の管理など、様々な事務作業にAIを活用することは当たり前になりつつあります。
しかし今後AIは、組織内の知識管理等を通して、組織全体の連携という課題に対して、より重要な役割を担うようになるでしょう。
従来の社内Wikiやドキュメント管理システムでは、情報が古くなりやすかったり、組織全体で一貫して活用されなかったりすることがよく起こります。AIシステムはこのプロセスを大きく変えることができます。
Slack、メール、ドキュメント、実験ノートなど、実際に日々の業務で使用されるあらゆるチャネルを繋ぎ、自動的に更新され、誰でもアクセス可能な知識基盤を構築できるのです。ユーザーは、ウェブページを行き来して情報を探す必要はありません。追加したい情報や知りたい情報をそのまま伝えるだけでシステムがその構造化を担います。
特に効果的なオーケストレーションの一つが、構造化されていないメモを掘り起こし、実験結果を説明することです。こうしたメモは多くの場合、事前に定義された構造化パラメータには収まらない実験の詳細を記録するために、科学者が自由記述で書き留めたものです。スタートアップが成長するにつれて、こうした非構造化の観察記録を手作業で確認することは現実的ではなくなり、そこに含まれる貴重な文脈情報は失われてしまいます。AIは電子実験ノートを確認し、非構造化メモを検索・分析することで、予期しない結果や一見矛盾しているように見える結果の説明をすることができます。
新しい機能:生物データを扱う自己教師ありモデル
2つ目のAIが生み出す価値はまだ発展途上ではあるものの、非常に大きな変革力を持っています。 これは、テキストではなく生物学的または生理学的データで学習されたモデルを含む領域です。こうしたモデルにより、人間が支援なしには生み出せない予測や生成的な出力が可能になります。
Isomorphic LabsやEvolutionary Scaleのような企業は、望ましい生物学的機能に適合する新規の酵素配列を生成するタンパク質言語モデルを活用しています。また、他の企業や学術研究グループでは、ゲノム言語モデルの開発を進めています。例えば、Arc InstituteのEvoモデルやBasecamp Researchの最新のEDENモデルは、細菌ゲノムおよび進化系統樹を用いて学習されており、変異の影響を予測したり、新規の抗菌ペプチドを生成することができます。
継続的な生理学的モニタリングは、有望な領域の一つです。Pheno.AIが持続血糖モニタリングデータをもとに構築したモデルのように、時系列データで学習された自己教師ありモデルは、個別化された形で今後の状態の変化を予測できます。さらに、追加のバイオマーカーに対応する連続的なバイオセンサーが開発されていけば、新しいAIモデルによって、個人の生理状態をより深く理解できるようになる可能性があります。例えば、1日の中でコルチゾールとメラトニンの周期を追跡することは睡眠やストレスの最適化に役立ち、プロゲステロンやエストロゲンのモニタリングは不妊治療の改善に役立つ可能性があります。
現代のAIは、バイオテクノロジーの未来に大きな可能性をもたらす一方で、すでに現在も価値を提供しています。スタートアップは、現時点ではまだ不完全なAIツールを導入することで、将来的に変革的なAIを活用するための土台を整えることができます。その過程で、AIツール自体がもたらす直接的な価値だけでなく、自社の組織文化をよりAIを活用しやすいものへと適応させるという点でも恩恵を受けることができます。
Rotem Gura Sadovskyについて
Rotemはデータサイエンスのリーダーであり、Corundum Systems Biologyのデータ戦略責任者です。以前は、初期段階のバイオテクノロジー・スタートアップにおいて計算生物学およびプロダクトマネジメントの職務に従事していました。 Finch Therapeuticsでは初期のデータサイエンティストの一人として、臨床用生菌製剤(Live Bacterial Products)の開発において中心的役割を果たしました。 彼の専門領域は、生体分子オミクス技術、ヒトコホート由来の臨床データ、バイオマーカー探索にわたります。MITで計算・システム生物学の博士号を取得しています。
安井さくら(インターン生)・千々岩 訳




